中国語ウォッチング
中国芸能界の頂点を見た

2009年10月22日
 先日の18日に東京国際映画祭の「東京・中国映画週間」に併せて来日している俳優の通訳をしに行ってきた。赤坂プリンスホテルに集合ということで、集合時間の15分前には到着する。永田町駅で降りたのだけれど、やはり赤坂は良いな~。密かに自分の中で赤坂は第二の故郷だと思っているから、まるで帰ってきたような気がする。赤坂プリンスホテルは初めてなんだけれど。

 通訳スタッフの控え室に通され、当日の動きを確認。
 僕の担当する陳坤(チェン・クン)はインタビューが3つも用意されているらしい。人民日報海外版、ASIAN WAVE、ポラリス…。人民日報に関しては中国メディアだから通訳は必要ないのだけれど、残る2つはどうやら日本のメディア?それに関しては通訳しなければいけないらしい。怖いけれど、適当に通訳しておけば後でちゃんとした中国人スタッフが字幕を入れてくれるでしょう。って、そんなこと言ったら殺されるんだけど(^^;)

 当日の動きの確認が終わってから、それぞれ担当する俳優の部屋に挨拶をしに行くことになった。それぞれ俳優たちも泊まっている階が違うから、僕は房祖名(ジェイシー・チャン)の通訳をする台湾人のカレンさんと一緒に行く。ちなみに房祖名はジャッキー・チェンの息子。コンコンとノックをしても出てこない。しばらくしつこくノックをしていたら、房祖名が浴衣姿で目をこすってドアを開けた。寝ていたらしい。簡単に自己紹介をしてすぐに部屋を後にしたが、これが房祖名だから良かったものの、僕の担当する陳坤だったらブチ切れていたかもしれない…。考えるだけで恐ろしい。
 作戦変更で一旦部屋に戻り、陳坤の部屋に電話をしてから挨拶をしに行くことにした。

ルルルルル…

相手「もしもし?」

出たのは何故か女性。中国人女性に特有の甲高い発音だ。多分マネージャーだと踏む。

自分「もしもし、陳坤さんのお部屋でしょうか?」
相手「そうですけど。」
自分「本日専属の通訳を務めさせていただきます、中村源太と申します。ご挨拶を兼ねてお部屋に伺わせていただこうと思いまして…、お時間の方はよろしいでしょうか?」

相手「………は?意味が分からないんですけど?」

恐ろしくなって、一気に震え上がってしまった(笑)。

自分「で・す・か・ら、本日専属の通訳を務めさせていただく者です。自己紹介をさせていただこうと思いましたので。」
相手「今ね、都合が悪いの。どうせ12時50分にロビーで会うんでしょ?その時でいいじゃない。今でなきゃいけない必要があるの?」
自分「そうですね…失礼いたしました…」

 早口の中国語でさんざんまくし立てられた挙げ句、けんもほろろに断られてしまった。部屋で僕の中国語を聞いていた李菲さん(中国の方で、ものすごい日本語がお上手)から「中村君、ホントに日本人!?え、中国人なんじゃないの!?」とお褒めの言葉をいただいたけれど、「意味が分からないんですけどって言われましたけどね」と伝えると、場の空気が一瞬凍り付いてしまった。
 聞くところによると、陳坤の通訳はみんなしたがらないらしい。陳坤がイヤなのではなくて、陳坤の周りにいるマネージャーやスタイリストとかが如何にも「大陸の中国人」というか、仏頂面でくっついていて、通訳をしにくいと言ったらありゃしないとか。

 とりあえず、12時50分のロビー集合まで時間をもてあます。少し赤坂プリンスホテルを探検してみたが、普通のホテル。特に珍しいわけでもない。

 12時50分になったので、通訳スタッフ全員で1階のロビーへ。
 やはり中国人だから?か、それともスターだから?か、まだ来ていない。しばらくロビーで待っていたら、来た来た、スターたち。すぐに分かる。紫色のど派手なドレスで現れ、袁文霆(ユアン・ウェンティン)に至っては一緒だった通訳スタッフからAV女優なんて言われる始末。…僕は見てて嬉しかったのだけれど。
 マイクロバスで新宿ピカデリーまで向かうのに、何故かマイクロバスの隣に小さな車が用意されていた。どうやら陳坤の専用車らしい。普通にマイクロバスに乗っていくとファンに取り囲まれてしまうという理由で、専用車が用意されたとか。
 遅れながら陳坤も到着し、マネージャーに挨拶。あっそう、というあっけない態度の初対面。車に乗り込んで、さっそく新宿ピカデリーへ向かう。

 赤坂から四谷の迎賓館などの近くを経由して新宿へ向かった。迎賓館などは東京に住んでいた時分には父さんとサイクリングで来たなーと懐かしい気持ちに。車の運転手も中国人?みたいで、迎賓館について陳坤たちに説明していた。その運転手さんが言っていたに、迎賓館は「国家元首しか泊まれない」らしい。陳坤が中国から連れてきた専属スタッフが「温家宝も泊まったの?」という質問に「国家元首のみだから、胡錦涛しか泊まれない」と答えていた。そうだったのか。
 そこで僕の隣の席に座っていた中国人スタッフの方が、陳坤に僕を紹介してくれた。「陳坤さん、こちらは本日通訳を担当して下さる中村さんです。ネイティブの日本人ですから陳坤の話された中国語を『完美』※な日本語に通訳してくださいますが、どうぞ中国語を話されるときにはゆっくり話していただけたらと思います。」陳坤も僕の方を見て「よろしくお願いします」と挨拶してくれた。

※『完美』中国語で、完璧なこと。非の打ち所がないこと。日本人として20年目に突入した僕であるが、果たしてそこまで美しい日本語を普段話しているかは自信がない。

 新宿ピカデリーに到着したら、正面玄関はファンで大変なことになっていた。スタッフから指示があるまで降ろしてはいけないと言われていたので、しばらく車の中で待機。
 スタッフが「降りて下さい」と指示をしたので、ドアを開けて降りる。するとファンが津波のように押し寄せてきて、すごいことになってしまった。僕は一応「アテンド」ということだったので、陳坤の隣に寄り添って、ファンが来ないように必死に盾になって「開けてください!」「押さないでください!」と叫ぶ。
 やっとのことでエレベーター乗り場まで来て、自分たちの後ろにロープを張ってファンが押し寄せてこないようにする。遠くからファンが陳坤にカメラを向けて、様々な要求をする。

チェンクンーーーー!!サングラスとってーーーー!!

自分「请你摘下太阳镜
(サングラスをとってくださいと言っていますよ)

すると陳坤はサングラスをとってファンの方を向く。

チェンクンーーーー!!笑ってーーーー!!

自分「笑一笑!
(笑ってって言っていますよ)

すると陳坤はニコッと笑う。

 そこでエレベーターが到着し、乗り込んでから最上階のプラチナルームへ向かう。VIP専用の部屋で滅多に入れない場所だ。
 范冰冰に房祖名、陳坤、居文沛に袁文霆、陸毅もいたし、中国の芸能界を知っている人からすればすごい光景だった。しかし范冰冰・房祖名・陳坤の3人は相変わらず同じソファに座り、3人でしかお喋りをしない。他の俳優には目もくれず、やはり芸能界にもランクというものがあるのかな~と感じさせられる一幕だった。僕自身は前日の17日にスタッフ関係者ということで映画を見させていただき、居文沛主演の『即日啟程(その日の旅立ち)』を見て、一気に居文沛のファンになっていたから、范冰冰がインタビューを立て続けに受ける華々しい様子を黙って見つめる居文沛が気の毒で仕様がなかった。
 居文沛と袁文霆が同じソファに座っていたから、思わず真ん中に座って写真を撮ってしまった。居文沛にこう伝えた。

你可能不认识我,但我认识你。
(あなたは私を知らないかもしれませんが、私はあなたを知っています。)

 これは胡錦涛国家主席が福原愛に言ったセリフだ。ちょっと気を利かせたセリフを言ってやろうと、居文沛に言うと笑っていた。映画の感想や自分の中国語学習歴など、少しお喋りをした。居文沛の映画『即日啟程』は個人的にはお気に入りだが、中国ではいまいち大作の陰に隠れてしまって、そこまで流行らなかったらしい。ものすごくおもしろい映画なのに、本当にもったいないと思った。

 そろそろ舞台挨拶の時間だ。
 僕は一応陳坤の隣にずっといたのだけれど、不意にマネージャーから質問をされる。

「陳坤は直接舞台袖に行けばいいの?」

申し訳ないのだけれど、僕は通訳だから細かいことまでは知らない。どうなんでしょうねぇ…と困っていたら、またまたマネージャーに切れられてしまった。

「あなたは所詮通訳だものね。ちゃんと分かってるスタッフ呼んできてよ!」

 そりゃあ…僕は所詮通訳ですけど…。
 なんだか、それを言っちゃあおしまいよ、という気がしないでもない。スタッフを呼んできて、細かい説明をしてもらった。僕にはその言葉を置き換えることしかできないのだなあ。

 舞台挨拶ではずっと我がアジア研究のOGである林先生が通訳をされていた。
 日→中に関しては、さすが中国でアナウンサーをされていただけに美しい中国語の訳出が聞けたが、本当に失礼な言い方かもしれないけれど、林先生はやはり、ほんの少々日本語のフォーマルな言い回しがお得意ではないようで、中→日の通訳に関しては「そうですねー」とか「というか」という表現がちょっと耳に残ってしまった(^^;)。まあ、僕はそんな偉そうに言える立場ではないのだけれど、やはり中→日に関しては日本人にやらせた方が良いのではないかと思う。

 舞台挨拶が終わってから、またプラチナルームに戻ってきて、今度はインタビュー。
 陳坤のインタビューは15時半から16時までということになっていたから、それまで陳坤の周辺をウロウロしていた。ウロウロというのは理由があって、常にマネージャーが隣になっていて、通訳でさえも寄せ付けない雰囲気を醸し出しているからだ。とはいえ離れるわけにもいかず、陳坤が目に届く位置でウロウロしていた。

 そうこうしていたら、日本人報道記者が慌てて走ってきた。
「范冰冰のインタビューをする予定の部屋がたばこ臭いので、何か消臭スプレーみたいなものはありませんか?」
 すると新宿ピカデリーのスタッフは不思議な顔をして「こちらは全館禁煙のはずですけど?」と答える。中国人スタッフたちがタバコを吸っていたのだ。我々は血相を変えて走っていき、タバコを吸っていた中国人たちに注意をする。ちなみに江平監督(『尋找成龍』ジャッキーチェンを捜して)も吸っていたもので、日中友好映画祭実行委員会の理事長が監督に直々お願いをすると、監督に逆ギレをされる始末。

「オマエたちスタッフが教えなかったのがいけないんだろう!」
「なんでそこでオレたちを罵るんだ!お門違いだろう!」

 なんでかなー、と思ってしまう。というより、妙に大陸さを感じてしんみりしてしまうのは僕だけ?中国に3日も行っているとこういうことが当たり前に感じてしまうから怖いが、ここは日本である。日本にいるのだから、日本の決まりに従ってもらわないと。第一、郷に入っては郷に従えって中国の言葉じゃないか。理事長も少し厳しく監督にお願いし、監督も最終的に「分かったよ」となった。やれやれ…。

 そんなことでバタバタしていたら、気付くと陳坤とマネージャーたちがエレベーターに乗り込んでいた。あららら?どこに行くのかしらん?慌てて僕もエレベーターに乗り込む。どうやら1階に向かうらしい。いやいや、まだインタビューやっていないじゃないの。

「インタビューがまだありますよ?」
「いいの」

マネージャーにまたもや冷たくあしらわれ、エレベーターは1階に到着する。いやいや、帰るにしても車は裏口から乗るようになっているはず。表玄関に行ったって、ファンにもみくちゃにされるだけなのだ。それを伝えてもマネージャーは戻ろうとしない。まして陳坤は黙って澄ました顔をしている。
 1階で案の定ファンにもみくちゃにされる。何も知らない玄関待機のスタッフは陳坤を車に通そうとする。僕は1人で「だめーーーー!!まだインタビューがあるのーーーー!!」と叫んでも、ファンの声にかき消されてしまう。なぜか表にきちんと陳坤の専用車がスタンバイしていて、みんな乗り込み始める。

「まだ帰ってはいけません。インタビューが残っています。」

 そんな僕の言葉も届かず、ええい!ままよ!と車に一緒に乗り込んでやろうと飛び乗ると、マネージャーにポンと突き落とされてしまった。

「私たちの仕事は終わりました。もう自由時間です。あなたにも用はありません。」

そうとだけ言うと、車のドアをバタンと閉め、靖国通りを新宿西口の方へ走って行ってしまった。

 困ったのは残された僕。ヤバイ…これはヤバイぞ…。あわててプラチナルームに戻り、ゲスト担当の方に伝える。するとスタッフたちは大慌て。そうこうしていたら、人民日報の方が僕のところへ来て「陳坤さんは…?」と聞いてくる。それに「帰ってしまいました…」としか答えられない自分。
 スタッフの方からは「仕様がないよ」と言ってくれたものの、ショックは大きい。せっかく与えてもらった仕事も満足にできぬまま、こんなことになってしまった。明日も中国大使館でお仕事をすることになっているし、同じ通訳チームのスタッフのお手伝い通訳もしているから、全く仕事がなくなったわけではないが、いやいや、そういう問題ではないのだ。僕の立場も考えてほしい。陳坤が帰ろうとしているのに気付く人のいなかった日本側もいいかげんだったが、中国の芸能界というか、契約や規約の遵守という観念が育っていないのではないか。インタビューに答えてなんぼの仕事をしているあなたたちがそれを放棄したら、警察官が泥棒を捕まえないのと同じだと思う。日本も舞台に国際的に活躍したいなら「與國際接軌」を学ばなきゃだめだよ。
 ま、力不足で返してしまった自分が一番悪いのだけれど。

 今回の映画祭には趙薇(ヴィッキー・チャオ)も来ていたのだけれど、彼女も途中インタビューも終わっていないのに帰ろうとしていた。この時にはみんな帰ろうとしているのに気付いていたから、みんなでそれを阻止する。

「降りても車はありません!」
「ファンに囲まれるだけです!」

しかし趙薇のマネージャーは負けず(?)に、

「インタビューって言ったって、メディア側の用意が全然じゃないのよ!」

と怒る。日本側スタッフも思わず「用意できていますから!」と叫び、何とか趙薇を連れ戻すことに成功した。とはいっても、実はメディア側の用意ができていわけではなく、趙薇は結局待つことになってしまった。
 そんなことで趙薇も相当イライラしていたようで、通訳を担当していた李菲さんを怒鳴り出すはめに。

「あなたが用意できているって言ったんじゃない!」
「どれだけ待っていると思うのよ!」

 中国語の口調とは本当に激しい。李菲さんも中国人だというのに、思わず泣き出していた。それはそうだ。李菲さんは通訳でしかないのだ。言葉を置き換えることしかしていない李菲さんに非は無い。趙薇はそれを見ても容赦なく、

「あなたプロでしょ!なんであなたが泣くのよ!」

なんて言い出す始末。趙薇…好きだったのになぁ。こんなシーンを目の当たりにして、思わずゾッとしてしまった。

 そんなことでドタバタして、何とか18日の開会式は幕を閉じた。
 これだけ書くと、中国スターってものすごく礼儀が悪いんだと思われるかもしれないけれど、他の俳優さんたちはみんな礼儀正しくインタビューを受けていた。特に陸毅はいつまで続くんじゃ!と思われるように果てしないメディアたちに笑顔で答えていた。インタビューに答える内容も理路整然としていて、曖昧なことを一切言わない。それでいて主張に一種のユーモアというか、愛嬌がある。こんな中国語だったら通訳しやすいし、通訳していて楽しいだろうなあ。
 この陸毅は、かっこいいのにチャラくなくて、奥さんも学生時代から長年付き合っている方らしい。数日後が娘の誕生日ということで、ホテルで挨拶をしに行った時も娘に国際電話をかけて話をしていたのだった。この彼に限らず、台湾や中国の若い芸能人はみんな話し方がうまい。少なくとも発言している時の姿勢というか風格、これは同世代の日本人に比べて格段にしっかりしている。メディアへの露出が多いから鍛えられているのか、それとも元々しっかりしているから芸能界で成功できたのか。
 僕のモノマネに「温家宝首相」「毛沢東主席」なんかがあって、これが同じ通訳チームのスタッフたちにえらくウケたのだけれど、通訳スタッフの1人がトイレから出てきた陸毅を捕まえて、「この子日本人なんだけどね、むっちゃモノマネが上手なの!温家宝とか爆笑ものよ!」なんて言うから、陸毅に「是非見てみたいな」と言われ、恥ずかしながらも披露した。そしたらマスコミが近寄ってきて、モノマネしている僕とそれを見て爆笑している陸毅の様子をテレビカメラで撮っていた。恥ずかしいが、本場の中国人にもウケたということで、良しとする。そういうことで、僕は陸毅に対する印象がものすごく良くなった。

 ちなみに翌日も中国大使館でのレセプションパーティにスタッフで出たのだけれど、そろそろ打つのに疲れたので(笑)その話は省くことにします。それか、また後日に。

 いろいろと勉強になったし、良い意味でも悪い意味でも芸能界の裏側を見た気がした。やはり中国語を使っていると楽しい。他の通訳スタッフの人たちはほとんど中国人だったけれど、やはり大きな刺激になる。一人だけだと燃えないし、自分に厳しくなれない(追い詰められない)。まあ、子どもの頃から赤ペン先生とか続いたためしがないし、結局他力本願なんだな(笑)。

 12月にも東アジア共同体のシンポジウムのスタッフとしてのお誘いがかかっている。独学とはいえ、色んな人たちに色んな機会を与えてもらっているのだなあとつくづく感じる。もっともっと精進していかなければ。

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